京都大学オープンキャンパスが、2026年8月6日・7日に開催されました。暑い中、多くの方にご来場いただき、ありがとうございました。

経済学部では、学部説明会と相談コーナーを開催しました。相談コーナーでは在学生が高校生・既卒生の相談に応じ、大学受験や大学生活の悩みなどに答えていました。私の講義を受講していた学生にも協力してもらいました。皆しっかりした学生ばかりなので、そのアドバイスはきっと役に立ったことと思います。

説明会は、学部長の歓迎挨拶、学部紹介、模擬講義という構成でした。模擬講義は二回行われ、そのうちの一回を私が担当しました。

ゲーム理論とは?

模擬講義では、高校生・既卒生に向けてゲーム理論を紹介しました。お堅く言えば、ゲーム理論とは「相互依存的意思決定の理論」です。もう少し噛み砕けば、互いに動きを読み合う人間の行動を分析する学問です。ここでいう「ゲーム」とは、まさにその読み合いが起きる戦略的状況を指します。「ゲーム」と聞けば、ビデオゲームや将棋を思い浮かべる人も多いでしょう。相手の出方を窺うという意味で、どちらもたしかにゲーム理論でいう「ゲーム」です。ただ、経済学でゲーム理論を使うとき、実際に分析の対象になるのは娯楽のゲームそのものよりも、市場や政策や日常の意思決定であることが多いです。

YouTubeの話でも書いたように、ゲーム理論についてもヨビノリさんの大変わかりやすい動画があります。説明のわかりやすさでは、足元にも及びません。ただ、ヨビノリさんの動画では「囚人のジレンマ」「ナッシュ均衡」などの基本概念の説明に重点が置かれ、それが何の役に立つのかという応用面には、あまり時間が割かれていませんでした。そこで模擬講義では、少し違う角度から、応用の話を二つ用意することにしました。

一つ目はブライスのパラドックスです。これもYouTubeの話で詳しく書きましたが、「道を増やすと渋滞が悪化する」という不思議な現象です。もう少し一般的に言えば、一見よさそうな選択肢を追加すると、却って全員が損をする、という話です。四則演算だけで理解できるのに、ゲーム理論の不思議が垣間見られる良い例だと思います。

二つ目はふるさと納税です。受講生自身はまだ縁がないでしょうが、ご家庭で利用されている方もいるだろうと思って取り上げました。仕組みを大雑把に言えばこうです。たとえば3万円を寄付すると、そこから2,000円を引いた28,000円が所得税・住民税から控除・還付されます。だから自己負担2,000円で返礼品を受け取れます。これが「実質2,000円で返礼品がもらえる」と言われる所以です。

正確には、控除額には収入に応じた上限があり、また自己負担2,000円は寄付一件ごとではなく年間の寄付合計に対してかかります。

自治体の側からすれば、寄付を集めるには、返礼品を他より豪華にすればよい。各自治体にとっては合理的な判断ですが、皆が同じことをすれば、集まった寄附の多く返礼品の調達費や事務手数料に消えていきます。結局ブライスのパラドックスも、ふるさと納税の返礼品競争も、背後にある構造は囚人のジレンマと共通しています。各自が自分にとって合理的な選択をした結果、全体として非効率な結果に陥る。

囚人のジレンマは、初めて聞くと拍子抜けするほどツマラナイ(?)と感じると思います。厨二病的な名前のわりに「だから何なの?」「当たり前では?」という感想を持つ人も多いはずです。それでも囚人のジレンマが重宝されるのには理由があります。二つの例が示すように、囚人のジレンマは現実のいたるところに顔を出すからです。しかも毎回ちがう表情で出てくるので、それが本質的に同じ問題だとは気づきにくい。裏を返せば、囚人のジレンマを理解しておけば、身の回りの問題の正体に気づき、対処方法も見えてくるかもしれません。

机上の空論?

経済学は机上の空論だと揶揄されることも多いです。そういう部分もありますが、なんでもかんでもそうというわけではありません。実際、ブライスのパラドックスに相当する現象は現実にも報告されています。 ふるさと納税は(問題点を知ってか知らずか)制度として導入され、返礼品競争が過熱した末に規制が入りました。

世の中の「不思議」を、数学やデータで理路整然と説明できる。それが経済学の魅力かもしれません。

高校生・既卒生の前で話すのは初めてでした。しかも約300人!力不足の感は否めませんが、これをきっかけに経済学やゲーム理論に少しでも興味を持ってくれた人がいれば、望外の喜びです。

京都大学Tシャツ

模擬講義に何を着ていくべきか、あれこれ考えた挙句、京都大学Tシャツにしました。デザインが三つあったので、いつもお洒落な同僚のY先生に相談したところ、エンブレム柄を勧めてくれました。感謝。